相槌神社の錺金具(かざりかなぐ)
~時代をつなぐ匠の技~
現存する相槌神社御社殿が、いつ創建されたかは、残念ながら記録に残っておりません。しかし、この度の御修理で解体を進めていく過程で、特筆すべき特徴が現れてきました。
そのひとつが『錺金具』です。
錺金具とは、日本人特有の美意識によって、より造形的、かつ、装飾性を帯びて作られる金具のことを言います。
主に、建物の構造を補強するために必要な釘・鎹(かすがい)・丁番などの”建物金物”や、部材木材のために垂木や破風先を覆う”包金物”などの種類があります。
古い時代の飾地金具
新しい時代の飾地金具
当社は小さなお社ですが、複雑な彫刻や極彩色の塗装などがほとんど見受けられません。その代わりになんと、大小あわせて300個以上の錺金具が施されていることが判明しました。これほど多くの錺金具が他の装飾手段を圧倒して施されていることを踏まえると、何かそこに相槌神社であるからこそのこだわりを感じ取れます。
ご承知の通り、相槌神社の創建の伝承には、「山ノ井の水を使って、伯耆安綱が刀鍛冶を行っていた時に、神様が降臨されて”相槌”し、名刀を完成させたこと尊んで、その神様のために社殿を設え整えて、お鎮まりいただいた。」とあります。降臨してくださった神様を顕彰するため刀鍛冶に通ずる匠の技を以って装飾を施し、御神徳を称えようとされ先人たちの心意気だったのではないかと思いを馳せずにはいられません。
さて、この300個余りの錺金具ですが、調査によると、一部は時代の変遷の中で補修や新調されており、様々な工法の金具が入り混じっていることがわかりました。
最も古い時代の金具は「水銀鍍金技法」という仕上げ方法で調製され、あの奈良東大寺の大仏そのものにもこの技法が使われていることから、当社も相応の時代まで遡ることができるのではないかと考えられています。
また、もうひとつ当社の錺金具の特徴として挙げられるのは「魚々子打ち」という技法です。
魚々子打ちとは、金具の主に図柄の入っていない部分に小さな円の型を細かく均一に打ち付けて、余白を埋めていく技法のことを言います。
小さな円が、一粒一粒手作業で丁寧に打たれているものほど歴史が古く、かつ、最高級の匠技と位置づけられています。相槌神社の錺金具は、まさに、魚々子打ちの匠技がふんだんにあしらわれた造形美を目にすることができます。そして、神様へ捧げる尊い信仰心が金具と共に伝わってきます。
古い時代の飾地金具
新しい時代の飾地金具
今回の御修理では、こういった金具類もすべて創建当初の輝きを甦えらせるべく修復に努めて参ります。
洗浄前
洗浄中
洗浄後
炊き洗い
酸洗い
ブラシかけ
漆塗布
箔押し一回目
漆塗布二回目
箔押し二回目
また、残念ながら、欠損・消失してしまった箇所も先人の匠技に倣って新調しています。
ぜひ、この相槌神社そのものを象徴する”錺金具修復特別御奉賛”にもご賛同いただき、ご支援くださいますよう、お願い申し上げます
引用文献、ご協力 【若林工芸舎】